高知地方裁判所 昭和27年(行)9号 判決
原告 山本多芳
被告 長岡村長・高知県知事
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告村長が昭和二十七年三月一日附書面を以てなした原告に対する昭和二十六年度産米穀の政府買入数量の変更指示及び同年同月二十四日附書面を以てなした右年度産米穀の政府買入数量の変更指示を取り消す。被告知事が原告に対し同年四月五日附の収用令書に基いてなした主要食糧収用処分を取り消す。訴訟費用は被告等の負担とする」との判決を求める旨を申し立て、その請求の原因として次のように述べた。「被告村長が昭和二十七年二月一日附書面を以て原告に対し昭和二十六年度産米穀政府買入数量を玄米二十石六斗五升とする旨指示(第一回指示)してきたので原告はこれに対し適法な異議の申立をしたが被告村長はこれにつき何等の決定をしないまゝ現在に及んでいる。しかるに被告村長は右指示を撤回せずに同年三月一日附書面を以て右指示の変更指示(第二回指示)をし更に右第一、第二回指示の撤回手続をへないで同年同月二十四日附書面を以て第三回の変更指示をした。そして被告知事は右第三回目の指示に基いて原告に対し供出を要求し原告がそれを拒むと同年四月五日附で収用令書を発し原告所有の米穀につき強制的な収用処分をした。ところで被告等の処分は次の理由で違法である。すなわち(一)右第二、三回の変更指示はそれぞれその前回の指示を適法に撤回した上でなされるべきものであるが全くさような手続をへずになされたものである。(二)殊に第二、三回の指示は全く事実にそわない公正妥当を欠く指示であつてそれに従えば原告にとつては将来の農業経営も従つて又供出も極めて困難な状態となる。(三)被告知事の収用処分は違法な右第三回目の変更指示に基いてなされたものであるから当然違法である。そこで原告は被告等のこの違法な処分の取消を求めるため本訴に及んだものである。」(立証省略)
被告村長及び被告知事指定代理人等は主文第一、二項と同旨の判決を求め、次のように述べた。
「原告主張の事実中被告村長が原告主張のような指示、変更指示をし、原告が第一回の指示に対し異議の申立をし又被告知事が第三回目の変更指示に基いて原告に対し供出を要求し原告が拒んだのでその主張のような収用処分をしたことは認めるがその余の事実殊に原告の異議の申立に対し被告村長が何等の決定をしなかつたとの点は争う。被告等の処分には原告主張のような違法な点はない。すなわち原告は食糧管理法第三条所定の米穀生産者であるからその生産米穀を命令の定めるところに従い政府に売り渡す(供出)べき義務があるのであつて、被告村長は右法律に基いて定められた昭和二十六年政令第三百十五号政府に売り渡すべき昭和二十六年産米穀に関する政令に則り検見の結果による村内生産者別収穫見込高に基き原告の米穀収量を総計三十五石七升と認定しその中農業経営に必要な保有量として飯米用四石三斗一升五合、種子用一石二斗五升を差し引いた残量三十九石五斗五合が供出可能量であるがこの量は前年度の原告の供出量を著しく超えるので村農業委員会の意見を聞いて原告の供出量を二十石六斗五升と定めその旨の第一回指示をしたものであるが、これに対する原告の異議の申立に対しては昭和二十七年三月一日その申立を棄却する旨の決定をしている。ところで被告村長は原告の右供出量増加の必要を認め前記政令第七条の規定に基きそれを二十三石八斗六升と変更しその旨の変更指示第二回指示をし更にその後なお増加の必要を認めてそれを二十六石八斗六升と変更しその旨の第三回の変更指示をしたのであるがこの変更については勿論村農業委員会の意見も聞いてある。しかるに原告は右供出義務量に対し第一回指示の数量にも満たない供出をしただけで同年三月三十一日の所定供出期限を経過してもその残りの供出をしない。そこで被告知事は食糧緊急措置令第三条の規定に基き原告に対し収用令書を発行交付して収用処分をしたものである。従つて被告等の処分はすべて適法であつて原告主張のような違法な点はない。なお被告村長の第二、三回の指示はそれぞれ以前の指示を撤回した上でなければできないものではない。」(立証省略)
三、理 由
被告村長が原告主張のような指示、変更指示をし又被告知事が原告主張の第三回目の変更指示に基いて原告に対し供出を要求し原告がそれを拒んだので原告主張のような収用処分をしたことは当事者間に争がない。
先ず食糧管理法に基く昭和二十六年政令第三百十五号政府に売り渡すべき昭和二十六年産米穀に関する政令第七条によれば市町村長は一旦指示した政府買入数量(供出量)を一定の場合変更指示することができる旨が規定されているのであるが、この変更指示をかりにその以前になされた買入数量の指示を撤回ないしは取り消した上なされるべき別箇の新たな指示であるとして考えてもその以前の指示はこの変更指示がなされることによつて当然撤回ないしは取り消されたものと解するのが相当であるからこの変更指示がそれ以前の指示を形式上撤回せずになされたからといつてそのためそれを違法な指示であるということはできない。のみならず本件においては証人金堂久喜(第一回)の証言により被告村長はその変更指示にあたつてそれ以前の指示書の返還を供出義務者である原告等に対して要求していることが認められるのでとうていこの点の原告の主張は採用できない。次に証人大久保広元、北村栄、坂本籠亀、上島勇、小串好晴、金堂久喜(第一回)の各証言を綜合すれば原告の昭和二十六年度産米穀の収量は三十二石四斗二升五合以上であつてその中飯米用、種子用等農業経営のため原告に保有を認められた数量は五石五斗六升五合であることが認められこれに反する証人山本正男、北村保の各証言は採用できないし他にこの認定を覆えすに足りる証拠がない。しからば原告の供出可能量は少くとも二十六石八斗六升以上であることが計算上明らかであつてしかも被告村長の指示した政府買入数量もその第三回の変更指示において二十六石八斗六升であることが成立に争のない甲第三号証によつて認められるところである。そこで被告村長の本件指示は法令により原告の農業経営のため必要と認められた保有量を除外した供出可能量の範囲内でなされたものであることが明らかであるが、かような範囲内の指示である限りたといその指示が同村内の他の供出義務者との比較上原告に対し他の者よりは過重な負担をかけるものであつたとしても又それがため原告の農業経営に多少の支障をきたすことがあるとしても、そしてもとより行政庁としてはさような指示はできる限り避けることが望ましいのであつてそれが原告に対する不当な取扱であることは別として、それがため直ちにその指示が違法な指示となる訳のものではない。そこでこの点の原告の主張も採用できない。被告村長の処分に原告主張のような違法があるとはいえないので被告知事の処分に対する原告の主張もまたもとより採用することができない。
以上の次第で被告等の処分に原告主張のような違法があるとはいえないから原告の本訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 森本正 安芸修 谷本益繁)